「慢性の炎症」はあらゆる病気に関係します。慢性炎症と聞くと、花粉症や湿疹をイメージするのでは?
スポーツ選手は筋肉痛、肉離れ、関節炎、腱鞘炎を想像するかもしれません。老化や疲労感、精神的疾患や下痢の原因と指摘する人もいるでしょう。しかし本当の恐怖は、慢性炎症によるリウマチ、動脈硬化、認知症、脳梗塞、心筋梗塞、気管支喘息、糖尿病、ガン、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎などです。
慢性炎症に大きく影響するとして「油」が注目されています。油によって、炎症を悪化させる、または炎症を抑えるとも言われています。現代人は炎症を促進させる油を多く摂取しているとされます。
目次
炎症をコントロールする
炎症は免疫作用
炎症の役割は防御反応です。免疫や血漿を集めて修復を促進します。しかし炎症がコントロールされないと慢性化し、症状がひどくなったり、いつまでも治まらないことになります。
白血球が炎症をコントロール
炎症を起こす因子を「炎症性サイトカイン」といい、炎症を抑える因子を「抗炎症性サイトカイン」といいます。抗炎症性である副腎異質ホルモンの「コルチゾール」は白血球によってコントロールされています。
ストレスで炎症が慢性化するワケ
ストレスでもコルチゾールが分泌します。その状態が続き、血中コルチゾール濃度が高いままだと高血圧・高血糖・免疫低下・不妊の原因にも。長期化すると副腎が疲れて分泌量が低下、慢性炎症につながります。
またコルチゾールは医薬品にも使われていて、長期間の服用は分泌力を低下させ、慢性炎症の原因になります。医薬品は対処療法なので、根本的療法として「食事(油/脂)で体質改善」が基本です。
結果的に、その方が早く確実かもしれませんね。
油(脂)の種類
2種類のアブラ
油(脂)は大きく2つに分けられます。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸の摂り過ぎは、動脈硬化や脂質異常症などのリスクやLDL(悪玉コレステロール)の増加につながるので気をつけたいですね。
一方、不飽和脂肪酸は病気の予防などに効果があるとされます。これも一価と多価の2つに分けられます。一価(オメガ9)は体内で合成されますが、多価は食事でとらなくてはいけない「必須脂肪酸」です。
多価不飽和脂肪酸にはオメガ3、オメガ6があります。
飽和脂肪酸
主に動物性脂肪です。エネルギーとして使われやすく、体内で合成できる脂肪酸です。多くは常温で固まる性質があり、摂りすぎると健康を害するとされます。世界保健機関(WHO)の2016年レビューでは、心血管疾患のリスクが高まるとして注意を呼び掛けています。飽和脂肪酸は慢性炎症にも影響しています。
主な脂肪酸 | バルチミン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸 |
多く含む食品 | 肉類、乳製品、パーム油、ヤシ油など |
不飽和脂肪酸
植物や魚介類に多く含まれる脂肪酸です。一価不飽和脂肪酸(オメガ9)と多価不飽和脂肪酸(オメガ3・オメガ6)の2つに分けられます。多くは常温でも液体という特徴があります。
一価不飽和脂肪酸(オメガ9)
オメガ9ともいわれる脂肪酸で、体内で合成することができます。比較的エネルギーになりづらいのですが、LDL(悪玉)コレステロール値を下げる働きがあるとされています。
主な脂肪酸 | オレイン酸、ミリストレイン酸、エイコセン酸など |
多く含む食品 | オリーブオイル、菜種油、キャノール油、果実油、ベニ花油、落花生油など |
多価不飽和脂肪酸(オメガ3)
体内で合成できない「必須脂肪酸」です。昨今、植物油のえごま油や亜麻仁油などが話題になっているほか、青魚のDHAやEPAなどがあります。炎症の抑制作用があり、慢性炎症には効果が期待できる油です。
主な脂肪酸 | α- リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(イコサペンタエン酸)など |
多く含む食品 | えごま油、亜麻仁油、シソ油、本マグロ、さば、ブリ、サンマ、いわし、うなぎなど |
多価不飽和脂肪酸(オメガ6)
必須脂肪酸で、血中コレステロールを下げる作用があります。大豆油やコーン油に多く含まれます。オメガ6は炎症を促進させる作用のある油で、摂りすぎると、慢性炎症の原因になります。
主な脂肪酸 | リノール酸、γ- リノレン酸、アラキドン酸など |
多く含む食品 | ベニ花油、ひまわり油、大豆油、ごま油、クルミ、月見草油、レバー、卵白など |
慢性炎症が改善する油
ダイエットなどで油をとらない人が増えています。しかし油は体を構成する重要な栄養素で、不足すると体調不良だけでは済みません。初期にはホルモン不調や細胞力・免疫力の低下を起こします。ポイントはどんな油をどのように摂るか?または摂ってはいけないか?です。
炎症をコントロールする油
炎症に大きな影響を与えるのが「オメガ3」「オメガ6」という脂肪酸です。オメガ3は炎症を抑え、オメガ6は炎症を促進する作用があります。
では炎症を抑えるためオメガ3だけを摂ればいいのでは?
なんて考えないでください。炎症も大事な免疫機能ですし、血液サラサラになり過ぎるのも問題です。
オメガ系脂肪酸の摂取量
必要とされる必須脂肪酸は、国際的な脂質評価団体(ISSFAL)によると総カロリー量の3~4%としていて、1日あたりオメガ6は2%(4~5g)、オメガ3は0.7%(2g)としています。2003年のWHO(世界保健機関)の目標設定では、オメガ6は5~8%、オメガ3は1~2%としています。
(%)は総カロリーあたり | オメガ3 | オメガ6 |
世界脂質評価団体(ISSFAL) | 0.7%(2g) | 2%(4~5g) |
世界保健機関(WHO) | 1~2%(2~5g) | 5~8%(10~20g) |
よく分かりません。それがどれくらいの食品量なのかも分かりづらいです。しかし共通しているのは、オメガ3とオメガ6の割合です。実は量よりも比率の方が重要なのです。ちなみに商品でいえば
食品の脂肪酸量 | 脂肪酸総量 | 飽和脂肪酸 | オメガ3 | オメガ6 |
さば1匹(96g) | 8.47g | 3.16g | 1.47g | 0.3g |
あじ1匹(68g) | 1.78g | 0.58g | 0.55g | 0.07g |
くるみ1粒(4g) | 2.7g | 0.27g | 0.36g | 1.65g |
大豆(50g) | 8.33g | 1.29g | 0.89g | 4.32g |
和牛バラ(100g) | 43.55g | 15.54g | 0.05g | 1.07g |
豚もも(100g) | 9.07g | 3.59g | 0.06g | 1.18g |
油はバランスが重要
体内に取り込まれた油は、吸収された比率のまま細胞に達します。タンパク質のような複雑な代謝経路がなく、ほぼストレートに取り込まれます。毎回の食事での油比率が、炎症反応に影響するということです。
オメガ3とオメガ6の割合
この割合はオメガ3:オメガ6=1:1、1:2、1:4など諸説あります。
様々な文献を調べたところ、オメガ3の2倍以上のオメガ6を摂ると、動脈硬化リスクが急激に高まることから、「1:1~1:2」を理想的な割合とします。ちなみに日本脂質学会は1:2を推奨しています。
オメガ6を摂りすぎる日本人
しかし日本人の現状といえば「オメガ3:オメガ6」は「1:6~1:10」とされ、慢性炎症やアレルギーの促進剤を食べているようなものです。この異常レベルに厚生労働省は、オメガ3を「1日1000mgとりましょう。」と訴えていますが。。。
スポーツ選手に必要なオメガ3
スポーツ選手がバランスのとれたオメガ系脂肪酸をとることで、慢性炎症の改善や下記のような作用が期待できます。スポーツ選手は牛肉の食べ過ぎる傾向があるのでほどほどに。故障や疲労につながります。
- 筋肉損傷の低下(過剰な炎症を抑える)
- 関節炎の減少
- 免疫の強化(細胞膜の機能強化)
- 筋肉や関節の柔軟性(細胞膜の柔軟性)
- 疲労感の減少
- 判断力や集中力などの脳機能の向上
(注)これらの効果については、エビデンスが乏しいもの、効果に疑問を投じる報告もあります。
油による病気発生率の違い
ここで参考までに「オメガ3」と「オメガ6」を極端にとっている民族の病気発生率をみてみましょう。
オメガ3の摂取が多いイヌイットと、オメガ6が多いデンマーク人の病気発症率を比較した研究結果です。
血清中の脂肪酸組成 | オメガ3(EPA) | オメガ6(アラキドン酸) |
イヌイット | 26.5% | 0.8% |
デンマーク人 | 0.2% | 12.4% |
Kromann&Green(1980)/2週間で変わるグルテンフリー健康法(溝口徹医師)出典 |
オメガ3割合の多いイヌイットは、脳出血を除き病気発症がかなり低いのが分かります。一方オメガ6の多いデンマーク人は、気管支ぜんそくや乾癬(皮膚の炎症)など、慢性炎症に関わる病気が多いことが分かります。陸上動物系の飽和脂肪酸のデータがないので、単純に比較はできませんが、参考になると思います。
イヌイットに脳出血が多いのは、オメガ3によって血液がサラサラになり過ぎることで、出血が止まりづらいのが原因とされます。脂肪酸をバランスよくとるとこで、適度な粘度になると思われます。
オメガ3の安全性と学術的評価
オメガ3の安全性
厚生労働省は、オメガ3系脂肪酸サプリメントには「副作用は認められない」としています。しかし魚類や甲殻類にアレルギーを有する方にとって、安全に摂取できるかは不明です。
また肝油などは魚油と違い、ビタミンAやビタミンDが含まれています。これらは大量にとることで毒性を発揮します。さらに疾患によっては、エビデンスが認められないもの、乏しいものもあります。
オメガ3の効果に疑問
厚生労働省は、オメガ3系脂肪酸の重要性として、筋活動、血液凝固、消化、生殖能力、細胞分裂(成長)、脳の発達など多くの機能性を示しています。しかし機能性や疾患への影響については、ハッキリ分からないことが多く、研究結果に差異が大きいため、有効とするにはエビデンスが弱いようです。また過酸化性の特徴から、効果を完全否定する学説も存在します。
されど世界中の多くの研究機関で、オメガ3とさまざまな病気との研究がなされていて、現段階では有用性を結論付けできない、というのが公式見解になります。
付録の記事
もっとも危険なトランス脂肪酸
慢性炎症を抑えるために、飽和脂肪酸の量を減らして、オメガ3(多価不飽和脂肪酸)を勧めてきました。しかしもっと危険な油があります。それが「トランス脂肪酸」です。
トランス脂肪酸は製造油で、自然界に存在しない構造をしています。血管疾患リスクを高めるとして、2003年以降アメリカを始め欧米各国が、表示を義務化しています。その後、使用規制も行っており、大手飲食チェーンでは、トランス脂肪酸を使わないというロモーションを行っています。
しかし日本は、表示義務がなく、使用制限も行われていません。マーガリン、パン、マヨネーズ、ドレッシング、ポテトチップス、スナック菓子を多く使われていて、「ショートニング」「ファットスプレット」「加工油脂」という表示があったら要注意です。
トランス脂肪酸は、血管や細胞を硬くし、代謝が悪く胃もたれの原因にもなります。さらにビタミンやミネラルを過剰消費するので、スポーツ選手は絶対に避けたい油です。
胃もたれしない油とは
油物を食べて「胃もたれ」することはありませんか?
「胃もたれ」はコレステロール不足が原因になることも。食べた脂(中性脂肪)は胃で攪拌され、十二指腸で胆汁酸によって乳化され吸収されます。この吸収がスムーズにいかないと、胃がもたれます。胃が弱っている、胆汁量が少ない、ことが原因です。この胆汁酸、原料はコレステロールです。
コレステロールは細胞膜や神経伝達物質にもなる重要な原料です。8割は肝臓で作くられ、2割は食品から供給されます。摂りすぎても肝臓の製造量が減るだけです。しかし慢性的にコレステロール食が少ないと、肝臓も疲れてきます。結果的に胆汁が作られず、油が胃に残されます。
油より炎症を悪化させる小麦
「グルテンフリー」が話題になっています。小麦が精神的な下痢や慢性炎症の一因になっているといいます。アレルギーや脳機能低下の土台になることも多いようです。それは小麦が「慢性炎症」物質ということです。しかし反応が遅いために、これが原因だとは長年分かりませんでした。いわゆる「小麦不耐症」です。日本人の不耐症は7割超ともいわれ、そのうち小麦不耐症は5人に1人程度とされます。
男子テニス王者のジョコビッチ選手が、グルテンフリーを始めてから驚異的な強さで、王者に君臨し続けていることは有名です。大坂なおみ選手が2019年の全豪オープンに優勝する前に、ジョコビッチ選手と対談していることから、もしかして大坂なおみ選手も、、、
編集後記
多くの書籍や文献では、炎症と油の因果関係を示したものが多かった。しかし一部の文献には、オメガ3と炎症抑制は因果関係がないとするものも存在した。ここではさまざまな文献等を総合的に判断して「オメガ3は炎症を抑制する」ことを支持した。仮に反論があったとしても、社会通念として扱ってもらいたい。
参考文献:ω3脂肪酸の代謝と抗炎症作用に関する研究(慶応義塾大学薬学部代謝性理化学講座から)、からだを活性化させる魔法の油「オメガ3」(講談社/青木絵麻)、オメガ3の真実 フィッシュオイルと慢性病の全貌(健康常識/﨑谷博征)、2週間で体が変わるグルテンフリー健康法(青春出版社/溝口徹医師)、ジョコビッチの生まれ変わる食事(扶桑社/ノバク・ジョコビッチ)
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