効率的な糖代謝は2つの回路の協力関係が大切!
糖の備蓄量は少なく、すぐに枯渇するエネルギー源です。しかし糖が代謝しなくなると、脂肪代謝も低下します。最終的に勝負を決する糖質!その代謝を効率的に行うには?
パフォーマンスを上げるには、いかに高いエネルギーを出し続けられるかがポイントですよね。ここでは瞬発系スポーツ・持久系スポーツともに重要な、糖の上手な付き合い方をご紹介します。
次のような内容をお届けします!
- その常識!間違っています!
- 糖代謝2つの経路(解糖系とクエン酸回路の特徴を説明します)
- 糖の種類(糖によって特徴や働きが異なります)
- グリコーゲンの備蓄量(どれだけの糖を備蓄できるのか?)
- 糖代謝の効率化4つのポイント!
目次
その常識!間違っています!
糖代謝には多くの誤解があるようです。
- 最初に糖が代謝して、その後に脂質が代謝される。
- 運動を始めてから20分しないと脂質が代謝しない。
- 糖が枯渇しても脂質とタンパク質があるから大丈夫!
- 糖のエネルギー代謝は無酸素運動で活発化する。
- 運動中に糖を摂取すると持久力が増えバテなくなる。
- 乳酸は疲労物質で蓄積すると筋肉疲労を起こす!
- 乳酸を除去するにはマッサージが一番!
などは誤った定説です。
糖質や脂質は1日24時間、代謝を続けています。また糖質と脂質はコンビの関係にあり、脂肪の代謝には糖質が必要です。また脳のエネルギーは糖質だけなので、不足すると判断力や意識の低下、さらに筋肉への指示系統に乱れや遅れが生じやすくなります。などなど
しかし糖の備蓄量には限りがあるため、上手に使うことが「勝負の鍵」になります。まずは全く違う2つの糖代謝経路をチェックしましょう。
糖代謝の2つの経路
スポーツ時における糖の代謝経路は「解糖系」と「クエン酸回路(TCA回路)」の2つに大別できます。一般的に瞬発系スポーツでは解糖系が使われ、持久系ではTCA回路が使われると言われています。しかしどちらかの場合でも、両方が協力しあって機能しているのです。
エネルギー代謝全般については「エネルギー代謝を高めてライバルに勝つメカニズム!」でご確認ください。ここでは、もっとも大事な「糖代謝」を中心に、詳しく説明します。
解糖系の糖代謝
糖の代謝経路の最初の段階が「解糖系」です。グルコースからピルビン酸をつくります。その過程で1つのグルコースから2つのATP(アデノシン3リン酸)を放出します。
解糖系の特徴
- 代謝スピードが早い(瞬発系の中心)
- 無酸素で糖代謝をしてピルビン酸を作る
- エネルギー生産量が少ない(TCA回路と比較)
- 副産物として乳酸とエタノールを発生(後述)
- 細胞内のミトコンドリア外の細胞質にある
代謝スピードが早く無酸素でエネルギーを生産しますが、生産効率が悪いという特徴があります。激しい運動で酸素を取り込めなくても、エネルギーを作れるシステムです。
TCA回路の糖代謝
ピルビン酸を原料に「TCA回路」で水素を作り、電子伝達系に送りATPを生産します。その工程は複雑で10数段階の代謝をビタミンB群や酵素を使い行います。
TCA回路の特徴
- 代謝開始が遅い(持久筋に多くある)
- 大量の酸素を必要とする(最大酸素摂取量が影響)
- エネルギー量が多い(解糖系の18倍36個のATP)
- 糖のほかにも脂肪を原料とする
- 脂肪代謝にも糖を必要とする
- 増やすことができる(速筋の遅筋化)
- 細胞内のミトコンドリアにある
この代謝経路は酸素を必要とするため、激しい運動で酸素不足になると機能しません。俗にいう「有酸素運動」系のエネルギー工場です。最終的に二酸化炭素と水になり、一連の代謝(酸化)は終了です。
*速筋=瞬発筋=白筋 遅筋=持久筋=赤筋
糖代謝の2つの問題点
糖代謝を効率的に行うには、2つの問題を解決しなくてはなりません。その2つの問題とは
解糖系がピルビン酸を作っても、TCA回路の稼働が追いつかなければ、ピルビン酸が行き場をなくして溢れることになります。しかも不安定なピルビン酸はストックすることができません。
また筋グリコーゲンは筋肉間を移動することができません。筋グリコーゲンの備蓄量は筋肉量に比例するため、太い速筋(瞬発筋)に多く、細い遅筋(持久筋)に少ないことになります。それでは備蓄量の少ない糖質を有効活用することができません。
糖代謝の問題を解決する「乳酸」
そこで登場するのが「乳酸」です。不安定なピルビン酸が乳酸に変わることで、約1時間ほどの短期的な備蓄が可能になります。また血管に入り込み、全身を自由に動き回り、他の筋肉に移動(白筋→赤筋)することができます。乳酸の再利用は、ピルビン酸に戻されてからTCA回路の原料になります。
筋肉は「速筋」と「遅筋」の2つに分けられます。速筋は太く大きく、多くのグリコーゲンを蓄えられますが、ミトコンドリアが少ないため疲れやすく持久力がありません。遅筋は筋線維が細いため、多くのグリコーゲンを抱えられませんが、ミトコンドリアや毛細血管が発達しています。
つまり速筋で多くの解糖系が働きピルビン酸を作ります。ピルビン酸は乳酸に変身、ミトコンドリア(TCA回路がある)の多い遅筋に移動して、TCA回路で代謝されます。
瞬発力系のエネルギー源だった糖質が、持久力筋のエネルギーになるのです。
糖質の種類
糖代謝で使われる糖とは?
糖質といっても、いろんなものがありますよね!砂糖、果糖、オリゴ糖、炭水化物・・・・・。その中でもエネルギーになりづらいもの、効率的にエネルギーになるものまで様々です。
糖の最小単位を「単糖」といい、何個つながっているかで、種類や働きが変わります。分子構造的には基、環状、炭素数など、かなり複雑で専門的過ぎるので、ここでは簡単に分かりやすく説明します。
単糖類 | ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース |
2糖類 | 砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖、酵母・カビ(トレハロース) |
3~10糖類 | オリゴ糖(ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖など) |
10糖以上 | グリコーゲン(単糖の貯蔵形)、食物繊維、デンプン、セルロース |
このうちスポーツで活用される「グルコース」と「フルクトース」に絞って説明していきます。それ以外の複糖は、分解されて結果的に単糖(グルコースやフルクトース)になります。
間違った糖質摂取でダウン!
同じ単糖でも、グルコースとフルクトースは性質がまるで違います。大きな違いは糖を取り込むインスリンの分泌にあります。インスリンは血中の糖を取り込むために、腎臓から放出される物質です。運動中にインスリンが分泌すると、脂肪の代謝を抑制してしまいます。脂肪の分解が低下すると、持久力はもちろんエネルギー供給が一気に低下します。そのカギを握る糖質がフルクトース(果糖)です。
インスリンショックで脂肪代謝ストップ
運動中に糖をとることは、糖代謝にとって効率的といえます。しかしとり方を間違えると、インスリンが大量に分泌し、脂肪の分解を抑えてしまい元も子もありません。この「インスリンショック」といわれる状態を生み出さないことが大切です。詳しくは後述します。
グリコーゲンの備蓄量
糖類はグリコーゲンの形になって、肝臓と筋肉繊維内に短期的に備蓄されます。数日間使われないグリコーゲンは、中性脂肪になって長期備蓄されます。
備蓄量は体質や筋肉量、トレーニングによって個人差がありますが、およそ肝臓で100 g、筋繊維で250~350 gとされています。筋トレで筋線維内のグリコーゲン量は増やせますが、糖は3倍の水分を抱えるため体重増加に直結します。
備蓄糖の全エネルギー量は、糖質1gで4kcalの熱量があるので、約1400~2000kcal分に相当します。しかし運動で使われるグリコーゲンは筋肉が中心で、肝グリコーゲンは主に血糖値調整に使われます。
グリコーゲン備蓄量の限界
あまり多くの糖質が蓄えられない理由は、糖質の水溶性という性質にあるようです。
糖質は血中の浸透圧を変え、細胞内のカルシウムバランスを崩します。そのため限界値が設けられていると考えられます。しかしグリコーゲン備蓄量は、筋肉量に比例するため、筋肉(白筋)をつけることで増やすことができます。ただ糖質は3倍の水分を抱え込む性質があり、体重増加が限界値の原因にもなります。つまり限られた許容の中で、如何に効率的にエネルギー代謝をするかが課題なのです。
グリコーゲン減少でおこる糖代謝低下
筋繊維内のグリコーゲンが減少すると、血中からグリコーゲンが供給されます。血糖値が低下すると肝臓からグリコーゲンが提供されます。しかし血中グリコ-ゲンは、脳や心筋のエネルギーでもあるため、ある程度減少すると運動機能を低下させ消費を制限します。それでも運動を続けると脳への糖供給が低下して、頭が真っ白になるランナーズハイ状態になるのです。
そこで考えられるのが、血糖値を維持する方法です。しかし血糖値を上げすぎたり、一気に高めたりすると、大量のインスリンが放出され、逆に血糖値を下げることになります。このインスリンショックへの適切な方法が持久力の大きなポイントになります。
糖代謝の効率化4つのポイント
糖代謝を効率化する4つの技!
- 糖の備蓄キャパを増やす「糖の備蓄量増加術」
- 乳酸を発生しにくくする「効率的な運動強度の設定術」
- 乳酸を効率的にエネルギー化する「乳酸の活用術」
- 枯渇したときの対策である「枯渇したときの有効術」
乳酸は疲労物質ではなく、エネルギーの備蓄性と流動性を高める物質です。乳酸の詳しい説明は「乳酸の科学‐トップ選手の乳酸コントロール術!」をご覧ください。
▶▶▶ 続き!「糖代謝を効率化!運動強度とグリコーゲン調整4つのポイント」
糖代謝をコントロールするメリット
- 持久力が高まる、エネルギー枯渇を軽減
- 瞬発力や筋肉疲労の回復を早める
- 筋肉の分解(減少)が防止できる
糖代謝のまとめ
- 糖代謝には、解糖系とTCA回路の2つがある
- 解糖系は無酸素で早くATPを作るが、1糖から2つしか作れない
- TCA回路は1糖から36個のATPを作るが、充分な酸素を必要とする
- 糖は多くは備蓄できない(肝臓100 g、筋肉250-350 g)
- 糖質も脂質も常に代謝している、脂質は糖質がなくては代謝できない
- 乳酸は疲労物質ではなく、エネルギー物質で糖代謝を効率化する
参考文献
「スポーツにおける糖の機能の重要性」Kyoto University. Laboratory of Nutrition Chemistry Graduate School of Agriaulture. Funkmaster、「スポーツ選手の適切なエネルギー供給」「砂糖類情報」独立行政法人農畜産業振興機構HP、「勝つためのスポーツ栄養学~東ドイツの科学的栄養補給」Rolf Donath/Klaus-Peter Schuler. 南江堂出版、「スポーツ指導者のためのスポーツ栄養学」小林修平 国立健康・栄養研究所所長. 南江堂出版、「スポーツ栄養学マネジメント」鈴木志保子ほか、
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