糖代謝のレベルは、無酸素運動だけでなく有酸素の運動機能においても、重要なファクターです。脂質代謝が中心の有酸素運動でも、糖が枯渇すると大きく機能低下します。
そんな糖の備蓄量を増やし、急激な枯渇リスクを避け、糖を効率的に代謝するには、4つのポイントがあります。その中で重要な尺度になるのが「運動強度」と「グリコーゲン・コントロール」です。
目次
4つのポイント!
無酸素運動だけでなく、有酸素運動でも重要な糖代謝ですが、それを効率化するために「蓄える」「使う」「補う」の3面からポイントを4つに絞りました。
また「乳酸」のコントロールも重要な課題です。上手に使えば、エネルギーを効率的に引き出せますが、扱いが悪いと筋肉の疲労回復が遅れることになります。
- グリコーゲンの備蓄量増加術
- 乳酸発生を抑える運動強度の設定術
- 乳酸を上手にエネルギー化する活用術
- グリコーゲンが枯渇したときの有効術
1、グリコーゲンの「備蓄量」増加術
一時的にグリコーゲンの備蓄量を増加させることができます。この方法は「カーボローディングまたはグリコーゲンローディング」といわれ、試合当日にグリコーゲン貯蔵量を一気に高める方法です。
試合の1週間前から準備して、運動量の落とし方と炭水化物の食べ方の調整で備蓄グリコーゲン量を高めます。
詳しくは「カーボローディング!超持久力を生み出すメカニズム」でご紹介しています。
2、代謝が変わる「運動強度」の設定術
糖代謝による乳酸の発生は、ある運動強度から一気に高まります。その境点をLT(乳酸性作業閾値/にゅうさんせいさぎょういきち)といいます。
瞬発系のスポーツでは、乳酸を早く除去することが課題です。長距離走などの持久系スポーツでは、乳酸の発生を抑えながら、上手にエネルギー化することが大切です。
乳酸は効率的なエネルギー物質ですが、筋肉を酸性化させる恐れもあるため、上手なコントロールが求められます。
瞬発系スポーツの運動強度
瞬発力系の運動では、高い運動強度に達するため、大量の乳酸が発生します。その乳酸の除去方法は、持久筋(赤筋)を稼働することです。すぐに止まらずに、軽く流して走るなどを習慣化してください。
瞬発筋の後に持久筋を使ってあげると、乳酸が消費されて瞬発力の回復が早まります。放置すると、乳酸は1時間ほどで分解されますが、筋肉の酸性化が進むことになります。つまり疲労回復の遅れです。
持久系スポーツの運動強度
持久力系の運動では、LT値が重要なポイントになります。プロや実業団のランナーなどは、乳酸を処理する能力が高いため、LT値を超えた走行が可能です。時速16 kmや18 kmでは完全にLT値を超えていますが、一般のアスリートでは全く無理な領域です。
一般のアスリートが持久系のスポーツをするには、LT値を超えないことが大切です。特殊なトレーニングをしたランナー以外は、LT値を超えた運動強度では、1~2km走るのが限界でしょう。
運動強度を高める
LTの目安は「息切れ」です。一般アスリートでは、話しながら走れる運動強度がほぼLTです。LTラインを基準値として、それを超える運動と切る運動を繰り返すことでLTラインを上昇させることができます。詳しくは「持久力をアップする乳酸作業閾値:LTトレーニング」でご紹介しています。
3、スーパー物質「乳酸」の活用術
筋線維を移動できない筋グリコーゲンに変わって、乳酸はエネルギーを必要とする筋肉に糖を届けます。
しかし良いことばかりではありません。乳酸は疲労物質ではないが、増加すると筋肉が酸性化する恐れがあります。筋肉の酸性化は、筋肉疲労、伸縮率の低下、指示命令系統の鈍化などを引き起こします。それらを防ぐには、LT値を高めつつ、乳酸の消費量を増やすことです。
詳しくは「乳酸の科学!トップ選手の乳酸値コントロール術!」でご紹介しています。
4、「糖の枯渇」2つの有効術
グリコーゲンの備蓄量がレッドゾーンになったら、筋肉を分解してグルコース(単糖)に変えて、糖代謝経路の原料にします。筋肉が糖エネルギーになることで、糖の枯渇を補います。例えれば、極寒の地で灯油も薪もなくなったため、家の壁や柱を壊して暖をというようなものです。しかしここでも2つの問題があります。
糖枯渇2つの問題点
タンパク質(筋肉)を分解してできたアミノ酸エネルギーは、総エネルギー量の5%程度しか使えません。最後のひと踏ん張りには有効ですが、安定供給はできません。また筋肉を分解することで、筋力低下は避けられません。できればアミノ酸エネルギーは使いたくありませんね。
筋肉破壊を防ぐ2つの方法
血糖値を安定させることで、筋グリコーゲンを補う方法があります。またアミノ酸の摂取で、筋肉破壊を防ぐことができます。
運動中の糖のとり方の留意点
- 運動前にブドウ糖(グルコース)をとると、インスリンが大量分泌
- インスリンは脂肪の分解を阻害する
- 運動開始後30分以降では、ブドウ糖をとってもインスリンは出にくい(交感神経が活性化しているとき、インスリンは出にくい)
- 果糖(フルクトース)は、インスリンが出ない
- フルクトースとグルコースを同時にとると、吸収が緩やかになる
- 糖の吸収が緩やかになると、インスリンは出にくくなる
次のことから、持久系スポーツの場合、前半はバナナなどを中心にした果物類から糖を補給。後半はそれに加え、ブドウ糖飲料(アミノ酸やビタミンB群を含むもの)をとることで、インスリンを分泌させず糖を摂取することができます。レースの後になるほど、ブドウ糖の濃度を上げたいところですが、グルコース濃度が高まると吸収が遅れることも念頭において下さい。
広島大学医学部の研究によると、安静時に飲んだ350 mlの純水のうち、50%が12分後に小腸に到達したという。しかしグルコース10%溶液の場合、小腸にたどり着くのに40分になったといいます。糖の濃度が高くなるほど、小腸は充分に吸収時間を確保するために、ゆっくり輸送されるものと考えられます。ドリンクの補給は、濃度と頻度が重要になります。
効果的なアミノ酸の補給法
糖の補給が追いつかなくなると、筋肉をアミノ酸に分解して糖化します。飢餓状態に対応する緊急回路で「糖新生」ともいわれます。筋肉破壊を防ぐには、レース中盤からのアミノ酸がポイントです。
アミノ酸の中でもアラニンが、肝臓内の「グルコース‐アラニン回路」によって糖になります。その他、グルタミン、アルギニンも回路があります。
アミノ酸の補給には、アミノ酸ドリンクが手軽ですが、アラニンの補給量を考えると、コラーゲンなどのアミノ酸食品をとることが効果的です。コラーゲンはアラニンをとても多く含む成分です。
5、おまけ
運動後のグリコーゲンの回復も重要な要件です。通常グリコーゲンが回復するには、24時間必要です。食事内容によっては、3日以上かかることもあります。
グリコーゲンを早く回復させるには、運動直後に糖の吸収力が高い糖質をとることが重要です。時間が経つほど吸収力が低下しますので、運動後1~2時間までには炭水化物をガッツリいきましょう。
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糖代謝のまとめ
- 効率化①糖の備蓄量を高める「カーボローディング」
- 効率化②LTの運動強度を高める
- 効率化③乳酸を活用する
- 効率化④糖が枯渇したときの対策
≪参考文献≫
「スポーツにおける糖の機能の重要性」Kyoto University. Laboratory of Nutrition Chemistry Graduate School of Agriaulture. Funkmaster、「スポーツ選手の適切なエネルギー供給」「砂糖類情報」独立行政法人農畜産業振興機構HP、「勝つためのスポーツ栄養学~東ドイツの科学的栄養補給」Rolf Donath/Klaus-Peter Schuler. 南江堂出版、「スポーツ指導者のためのスポーツ栄養学」小林修平 国立健康・栄養研究所所長. 南江堂出版、「スポーツ栄養学マネジメント」鈴木志保子ほか、
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