熱中症の予防で水を飲む!この常識的な対策が脱水症状を加速させ、熱中症を悪化させることがあります。その原因は、体内のミネラル濃度を維持するために、水分の排出が促進されることで起こります。熱中症のリスクを軽減して、パフォーマンスを維持する正しい水分補給方法をご紹介します。
目次
水分補給で脱水症状が悪化
水分補給で起こる脱水症状
熱中症は体温上昇により、さまざまな身体機能に障害を起こすことですよね。それを下げるのが発汗の役割で、体温上昇が高く降下時間が長いほど多くの汗が必要です。そのため水分補給は熱中症対策の基本です。
体内水分量は塩分量に比例
汗1リットルには、塩分が2~9グラム(諸説)含まれています。運動強度や環境によって変わりますが、かなりの量ですよね。体内の塩分濃度は水分保有率と比例するため、塩分濃度が下がると体内に水分が留まることができません。体内水分量の低下は、最大酸素摂取量を減少させるので、持久機能にも影響します。
ミネラル濃度の低下を防ぐ
また汗の成分には、多くのミネラル(電解質またはイオンともいう)が含まれています。発汗したときに水だけを飲むと、体内のミネラル濃度が低下し、筋収縮・神経伝達・水分調整・体温調整などに影響します。
その諸症状を防ぐため、脱水症状を加速させ、水分を排出し、ミネラル濃度を維持します。ミネラル濃度(塩分濃度と比例)が低下した状態が続くと「低ナトリウム血症」から「水中毒」になる恐れがあります。
体重の2%の汗で脱水症状
多少の発汗であれば、水だけでも熱中症を予防できます。またドロドロの血液を解消することもできます。しかし長時間炎天下にいたり、1時間以上運動したりする場合、水だけでは身体機能の低下を防げません。体重の1%以上の水分が失われると、徐々に身体に影響が現れはじめ、2%超で脱水症状といわれます。
2%というと体重50kgであれば1リットルの汗になります。汗1リットルはマラソンで1時間ほど、サッカーではハーフ、ボクシングなどの激しいスポーツでは20~30分の平均的な発汗量になります。1%の水分が失われると10%のパフォーマンスが低下するとされ、2%では20%もの運動機能が低下します。
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レベル | 水分量の低下 | 脱水症状 |
1 | 1% | パフォーマンスの低下が始まる(自覚症状は少ない) |
2 | 2% | 喉が渇き始める、心拍数上昇、ここからが脱水症状 |
3 | 3% | 強い喉の渇き、明らかなパフォーマンスの低下 |
4 | 4% | 皮膚の紅潮、イライラ、疲労困ぱい、体温上昇 |
5 | 5% | 熱疲労によるめまい、ふらつき、吐き気、筋疲労、頭痛など |
6 | ~10% | けいれん、幻覚、身体動揺 |
7 | ~20% | 失神、死亡にいたるレベル |
パフォーマンスの低下を防ぐには、喉が渇く前の水分補給が大事です。10分に1回100~180ml、または15分に1回150~250mlをルーティンにすると、脱水による運動機能の低下が抑制できます。
熱中症対策で重要なミネラル
汗1リットルに含まれるミネラル
汗によって塩分が流出することは、みなさん体験的に理解していると思います。たくさん汗をかくと、シャツなどに白い粉が付着しますよね。しかしその中には、塩分だけでなく多くのミネラルが含まれています。
米国立衛生研究所は汗1リットル中の成分として、ナトリウム900mg以上(塩分換算2.3g)、カリウム200mg以上、カルシウム15mg、マグネシウム1.3mg、亜鉛0.4mg、銅0.8mg、クロム0.1mg、鉄1mg、ニッケル0.05mg、その他モリブデン、ヨウ素、マンガンなどの微量ミネラルも含まれるとしています。
また厚生労働省は、汗に含まれる塩分濃度は個人差があり0.3~0.9%としています。汗1リットルあたりに換算すると、3~9gの塩分が失われていることになります。その喪失分を補わなくては、パフォーマンスの低下につながるほか、熱中症のリスクが高まります。またリカバリーや疲労度にも影響してきます。
*出典:米国立衛生研究所2007.12;17(6):574~582、厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査結果の概要」
ミネラルの働き
ミネラルの主な役割として、電解質、代謝機能、個別機能の3つがあります。またビタミンやタンパク質など他の栄養素は、ミネラルがなければ吸収や働くことができません。栄養の中の栄養といわれ、もしミネラルが体内からなくなると、すべての細胞は活動を停止するといわれるくらい、基礎的な栄養です。
電解質としての役割
水は電気を通しますか?
一般的に水は通電すると思われていますが、H2Oは電気を通しません。
水が電気を通すのは、ミネラルなどの成分が溶け込み電解質液になっているからです。身体のすべての機能は、電気信号によってコントロールされているため、電解質濃度は身体機能に重大な影響を与えます。
その電解質の主な成分は、ナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウムです。ちなみに体液と同じ濃度なのが生理食塩水約0.9%(0.9w/v%)です。海水を約3分の1に薄めたものと同濃度です。
ミネラルと代謝機能
「代謝」とは体内で物資が化学変化を起こすことをいい、糖質や脂質がエネルギーに変換される過程を「エネルギー代謝」、古い細胞が分解され新しい細胞ができることを「新陳代謝」などといいます。
これらの代謝には、酵素、ビタミン、アミノ酸、脂質などが関わっており、ミネラルはその化学反応をスムーズにする物質です。ミネラルはすべての代謝を担っており、その機能は生命活動そのものといえます。
ミネラルの個別機能
ミネラルにはそれぞれの機能があります。その作用は多岐にわたるため、ここではスポーツに関する代表的な作用をご紹介します。
ミネラル | スポーツにおける役割 |
ナトリウム | 電解質の主要ミネラル、水分調整、筋収縮 |
クロール | 浸透圧やpHを調整、体内でもっとも多いマイナスイオン |
カリウム | 浸透圧調整、筋収縮、神経伝達 |
カルシウム | 筋収縮、情報伝達、骨強度 |
マグネシウム | 筋緩和、骨カルシウム維持、代謝補助、不足はこむら返り |
亜鉛 | 酵素ミネラル、タンパク質再合成、DNA合成、発育、インスリン |
マンガン | 糖脂質代謝ミネラル、酵素を活性化させる |
銅 | 血のミネラル、鉄をヘモグロビンに運ぶ、不足すると貧血に |
ヨウ素 | 甲状腺ミネラル、生理作用、タンパク質合成、成長モルモン |
セレン | 抗酸化ミネラル、細胞の酸化を抑える |
クロム | 炭水化物や脂質の代謝ミネラル |
モリブデン | タンパク質や鉄の代謝ミネラル |
ご覧のように、微量元素であっても重要な役割を果たしています。だからといって単独ミネラルの摂取は、おすすめできません。ミネラルは互いに影響し合いながら、バランスを保ちつつ機能を発揮します。体液のミネラルバランスと同等のミネラルを、総合的にとることが理想です。
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正しい水分補給
スポーツ時の飲料として、経口補水液やスポーツ飲料が主流になっています。しかし汗で失ったミネラルをどう補うかの共通課題があります。ちなみにミネラルウォーターには、充分なミネラルは入っていません。
塩分が多めの「経口補水液」を選ぶか?糖質が多めの「スポーツドリンク」を選ぶか?またはミネラルをしっかりとれる「ミネラル補水液」を選ぶか?その特徴や目的を理解しておくと、緊急時に役に立ちます。
水分の重要性
熱中症対策でもっとも重要な水分の役割は、体温を下げるということでしょう。
また「水分」は、必須5大栄養素(または6大栄養素)には入っていませんが、もっとも重要な栄養素といえます。今さらですが、その役割は「生命循環」そのものです。
水分は、消化、栄養素の吸収、体液循環、排せつ、代謝などさまざまな機能を担っています。また栄養や酸素を細胞に運び、細胞から老廃物を運び出します。水分量の減少は、それらの機能低下を意味します。さらに免疫機能のひとつである唾液の99.5%も水分で、唾液の減少はスポーツ感染症のリスクを増加させます。
ミネラル補水液の活用
熱中症を予防する適切な水分補給は、汗で流出したミネラルをそのまま補給する方法がベストと思われます。スポーツ時に飲まれる飲料は、大きく分けて低浸透圧(ハイポトニック飲料)、中浸透圧(アイソトニック飲料)、高浸透圧(ハイパートニック飲料)に分けられます。
水分吸収がもっとも早いハイポトニック飲料
代表的なものが「経口補水液」です。経口補水液はもともとWHO(世界保健機関)やUNICEF(国連児童基金)が、アフリカなどでの子供たちの極度の脱水症状を救済するために考案された成分割合です。
その配合表に準じた飲料が「経口補水液」で、もっとも水分吸収が早いとされています。
細胞への負担が少ないアイソトニック飲料
アイソトニック飲料であるスポーツドリンクは、日本スーツ協会が熱中症対策の水分補給として推奨する食塩0.1~0.2%、糖質4~8%に準拠したもので、経口補水液よりも塩分が少なく、糖質が多くなっています。
細胞の浸透圧と同等にしているため身体への負担が少ないとされていますが、幼児が脱水症状を起こしている時にスポーツドリンクを飲ませると、低ナトリウム血症から水中毒を引き起こすことが知られています。
共通の課題と理想的なドリンク
経口補水液やスポーツ飲料には、配合ミネラルが少ないという課題があります。汗で多くのミネラルが流出することによるパフォーマンスの低下を防ぐには、流出したミネラルと同等の補給が必要です。それらのカバーした飲料は、一部のメーカーから発売されていますが、まだ普及していないのが実情です。
熱中症対策!おすすめのドリンク
熱中症対策ならびにスポーツ時における補水ポイントは、体内保水量の維持、電解質の補給、総合ミネラルの確保です。それらをベースに、汗をかく量ごとにおすすめの飲料をお伝えします。いずれのケースであっても、ルーティン補水を重視して、喉が渇く前に補水することが大切です。
状況 | 脱水リスク* | 汗の量(時) | 運動強度*** | あすすめの飲料 |
日常時(適温) | なし | ~200ml | ~3 | 水・ミネラル水 |
軽度の運動 | なし~軽度 | ~500ml | 4~5 | スポーツ飲料 |
中度の運動 | 軽度~中度 | ~1000ml | 6~9 | スポーツ飲料~経口補水液 |
強度の運動 | 中度~重度 | 1000ml~ | 10~ | 経口補水液+総合ミネラル |
高温多湿に長時間 | ~重度** | – | 1~ | 救急処置、点滴など |
*脱水状態は補水をしなかったケースを想定しています。また気温や湿度が高い場合や、炎天下に長時間いた場合などは、脱水状態が急激に進行するので、脱水リスクが上昇します。
**日常時でも、室内で熱中症を起こし救急搬送されるケースが多いことから分かるように、高温多湿状態に長くいると、脱水症状が重度化しやすくなります。体内の保水力は年齢とともに低下するので、同じ汗の量でも熱中症リスクが高くなります。補水をルーティン化して、喉が渇く前の水分補給に心がけましょう。
運動強度(METs)
運動強度は、運動時の負担による「きつい」を数値化したもので、心拍数や最大酸素摂取量などいくつかの計測・計算方法と指標があります。ここではMETs(メッツ)を使って目安を示しています。
METsとは安静時を1として、その何倍のエネルギーを消費するかを指標化しています。歩行3METs、速歩4METsなどで代表的なものを下記に示しました。詳細は国立健康・栄養研究所のHPで確認できます。
METs値 | 主なスポーツや活動(例) |
1 | 安静時、睡眠、 |
2 | 歩行(室内)、釣り(座位)、調理、 |
3 | 歩行(4km/h)、スポーツ観戦、セーリング全般、社交ダンス(ゆっくり) |
4 | 歩行(ベビーカー)、卓球、自転車(16.1km/h未満) |
5 | 歩行(6.4km/h)、スケートボード(ほどほど)、サーフィン競技、 |
6 | テニスダブルス、フェンシング、ソフトボール(投球)、バレーボール試合 |
7 | 歩行(7.2km/h)、バドミントン試合、ローラースケート、ジェットスキー |
8 | テニスシングルス、バスケットボール試合、アメフト試合、水泳(シンクロ) |
9 | ランニング(8.4km/h)、自転車(19.3km/h) |
10 | 自転車(22.5~25.6km/h)、サッカー試合、水泳(速いクロール) |
11 | ランニング(11.3km/h)、社交ダンス競技、 |
12 | 縄跳び(120ステップ/分)、自転車(25.7~30.6km/h) |
13 | スピードスケート競技、 |
14 | フィギアスケート、自転車(非常にきつい 201~270w) |
15 | ランニング(階段上り) |
16 | ランニング(17.7km/h)、自転車(山道競技)、自転車(33km/h~) |
19 | ランニング(19.3km/h) |
23 | ランニング(22.5km/h) |
経口補水液の作り方
熱中症対策の理想的なドリンクとして、ミネラル含有経口補水液の作り方をご紹介します。
水1リットルに対して
- 海水塩(*)・・・2~3g
- ブドウ糖+果糖・・13.5~40g
- 塩化カリウム・・・2.0g
- クエン酸・・・・・3g
- レモン果汁・・・・1個分
*海水のミネラル割合は、体液とほぼ同じとされているため、海水ミネラルをそのままの乾燥させたものが理想的です。ミネラルバランスのとれた海塩は、摂り過ぎによる高血圧のリスクも少ないとされています。しかしマイクロプラスチックの問題があるので、その対応をしている海塩を選んでください。
緊急時の経口補水液の作り方
緊急用の飲料として、即席で作れる経口補水液をご紹介します。重度の脱水症状時には水を受け付けないので、経口補水液を用意しましょう。
水1リットルに対して
- 砂糖ひと握り・・・大さじ4と1/2(60~70g)
- 食塩ひと摘み・・・小さじ1/2(2~3g)
- できればレモン1個~2個。レモンがない場合は、ほかの柑橘類でも大丈夫です。
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