バスケットボールは攻守の切り替わりが非常に早く、ダイナミックなプレーが見られるスポーツだ。それがバスケットボールの魅力でもある。コートの中では選手同士の距離が非常に近いため、激しいコンタクトプレーも続出する。それらがバスケットボール選手に怪我が多い理由でもある。
ここではバスケットボールで起こりやすい7つの怪我と、それぞれの処置方法について怪我ごとに紹介する。怪我とその処置について正しく知ることは、迅速な回復への近道につながる。怪我からの早期復帰を目指すあなたの、少しでも手助けとなるなら幸いだ。
目次
1. バスケットボールに多い7つの怪我
ジャンプやストップの動作が多いバスケでは、主に下半身に負担がかかりやすい。特に足首や膝関節に怪我をする選手が多い。また大きく重いボールをキャッチする際に、手指に怪我をするケースも非常に多い。
スポーツでは「突発的な怪我」と「慢性化する怪我」があるが、バスケットボールではそのどちらも発生しやすい。急な衝突が原因になる怪我も多いバスケットボールで、どのように対処すればよいのか悩む人もいるだろう。ほとんどの選手は怪我から早急に回復して、コートに復帰したいと考えるに違いない。
1-1. 足首の捻挫
足関節の捻挫は、バスケットボールで最も多い怪我だ。ジャンプの着地時にバランスを崩したり、相手選手の足を踏んだりして起こるケースが多い。捻挫はその起こりやすさゆえに、軽視されがちな怪我でもある。しかし捻挫とは足首の靭帯損傷であり、決して軽く考えてはいけない怪我だ。靭帯断裂を起こしている場合も多いため、医療機関の受診を含めた早急な対処が必要となる。
1-1-1. 症状
- 関節を動かすことで痛む(運動痛)
- 患部を押したときに痛む(圧痛)
- 安静時にも痛む(自発痛)
- 関節の不安定感があり、ガクガクする
軽度ならば痛みや腫れは少ないが、患部の靭帯を伸ばすように曲げると痛みが生じる。中度では痛みと腫れが強く、内出血が見られ関節に血液が溜まる。重度の場合は靭帯が大きく断裂している可能性もあり、体重をかけることもできないほど痛む。
1-1-2. 処置方法
捻挫を起こしたらすぐにPOLICE処置を行い、患部を冷却しながら圧迫し安静にする。患部の腫れが広がる可能性があるため、圧迫しすぎないように注意する。歩けないほど痛みがひどい場合は、すぐに医療機関で診察を受ける必要がある。
腫れや痛みが軽減するまでは、患部を動かすトレーニングは控える。軽度の捻挫であれば、1~2週間で練習や試合への復帰も可能だ。復帰を焦ると再発しやすくなるので、確実に完治させることが大切だ。
1-2. 手指の突き指
パス回しやドリブルを多用するバスケットボールは、手指の怪我とは切っても切れないスポーツだ。特に突き指は中高生の部活動で多発していて、パスミスで起きるケースが大半を占める。バスケットボールは大きなボールを扱うため、特に小指の突き指が多い。
プロや実業団のバスケットボール選手では、突き指などの手指の怪我は減る。これは中高生に比べて技術の熟練度が高くなり、怪我の頻度が減るためと考えられる。怪我を減らすためには、自身のテクニックを磨くことも大切なのだ。
1-2-1. 症状
- 指先をまっすぐに伸ばせなくなる
- 関節に腫れと痛みが起こる
- 関節が左右にぐらぐらする
第一関節の受傷で、指先の骨を伸ばす腱が切れると、指先を伸ばせなくなる。指先から二番目の関節には側副靭帯があり、この靭帯が衝撃を受けると断裂する場合がある。指先の変形、腫れ、痛みが激しい場合は脱臼や剥離骨折の恐れがる。
1-2-2. 処置方法
突き指をしたら即座にPOLICE処置を行い、しっかりと冷却する。以前は突き指は引っ張って治すと言われていたが、引っ張るのはもちろんむやみに動かすのも厳禁だ。応急手当の後に医療機関でレントゲンを撮り、怪我の状態を正しく把握しよう。
たかが突き指と侮って放置していると、変形が残ったり脱臼を繰り返したりと完治が難しくなる。剥離骨折や靭帯損傷を起こした場合、程度によっては手術が必要となる。テーピング固定を行うのが望ましいが、患部を圧迫しすぎないように注意しよう。
1-3. ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
バスケットボールでは、跳躍動作の繰り返しが多く、走る時間も長い。そのために起こる怪我がジャンパー膝だ。膝にある膝蓋腱という靭帯が、ジャンプや着地のたびに引っ張られてストレスを受け、小さな断裂や炎症を起こして発症する。膝蓋靭帯の周辺は血行が乏しく、一度炎症が起きると改善しにくい傾向にある。
ジャンパー膝の最も大きな原因はオーバーユースだ。長身の選手に多くみられる傾向があり、成長期で急速に身長が伸びる子供にも多い。「骨の成長」と「筋や腱の成長」バランスが悪いと、発症しやすくなる。
1-3-1. 症状
- 運動後に膝前面に痛み(疼痛)が起こる
- 運動開始から終える後まで継続的に疼痛がある
- 安静にしているときでも痛む
初期には運動後に膝の痛みを感じる程度だが、悪化すると運動中にも痛みが現れる。放置すると日常生活にも支障をきたし、完治が遅れるため注意したい。ジャンパー膝は突発的な外傷ではなく、膝の使い過ぎによる慢性的な障害であるため、違和感を覚えたら早めに受診するべきだ。
1-3-2.処置方法
オーバーユースによる怪我は、練習量を減らして安静にするのが回復への最短ルートだ。練習前に膝を温め、練習後はアイシングを行うのがよい。テーピングの装着も痛みを緩和できる。
バスケットボール選手の職業病とも言えるジャンパー膝だが、軽傷であれば適切な対処で素早く復帰ができる。ストレッチで大腿部の柔軟性を高めると、怪我の回復も早く予防にもつながる。なかなか治らないと感じたら、医療機関で詳しい診断を受けよう。
1-4. 前十字靭帯損傷
膝には前十字靭帯・後十字靭帯・内側側副靭帯・外側側副靭帯の4つの靭帯が集まっている。バスケットボールでは前十字靭帯の怪我が多く、重症度が高い場合がほとんどだ。前十字靭帯損傷の発生件数は、全スポーツの中でバスケットボールが最も多い。
コンタクトプレーでの発生が多いが、非接触型の怪我も非常に多発している。非接触型での発生は女子選手が圧倒的に多く、女性の骨盤の形がX脚を起こしやすいことや、関節が柔らかく筋力が少ないことなどが主な理由となる。前十字靭帯損傷の発生頻度は、男子選手に比べ女子選手の方が4倍ほども高い。
1-4-1. 症状
- 関節が強く腫れ、内出血が起きる
- 膝が不安定にぐらつき、力が入らない
- 強い痛みがあり、膝の曲げ伸ばしがしにくくなる
怪我の直後から動けないほどの痛みが起こり、徐々に関節内に出血が溜まり患部が腫れる。怪我の瞬間に「ブチッ」「ポキッ」などの音がする場合もある。ノンコンタクトで損傷すると、見逃して放置しがちなので重症化しやすい。
1-4-2. 処置方法
膝の痛みと内出血による腫れを認めたら、直ちに医療機関で検査を受けるべきだ。競技を続けるには手術で靭帯を再建する必要があり、復帰までは半年~1年ほどかかる。中途半端な治療では回復が遅れ復帰が遠のくので、焦らずにじっくり完治を目指そう。
急なストップ動作や方向転換、ジャンプの着地などで前十字靭帯は損傷しやすい。膝下が外側に出るX脚や、膝がねじれる姿勢も怪我の発生を招く。下半身の筋力や柔軟性を高め、怪我をしにくい姿勢の維持を目指すことで、前十字靭帯損傷の予防につながるだろう。
1-5. シンスプリント
シンスプリントは脛部に、圧痛や運動時痛を生じるもので、オーバーユースにより発症する。ランニングやジャンプの動作を繰り返すバスケットボールでは、かなり頻繁に起こる怪我と言える。腓骨過労性骨膜炎とも呼ばれ、シーズン初期の新入部員に多く見られる。
痛みを我慢して練習を続けることで、慢性化しやすいのがこの怪我の特徴だ。軽度ならウォームアップで痛みが消える場合もあるが、症状が進行すると安静時にも痛むようになる。重度になると日常生活にも支障が出るほか、疲労骨折を招く危険もあるため注意したい。
1-5-1. 症状
- 患部を押すと痛む(圧痛)
- 歩く・運動するなどで痛む(運動痛)
- 患部に腫れがある
脛にある腓骨の内側下部にストレスがかかり、疼痛を起こすのがシンスプリントの症状だ。運動量が急激に増えることや、体重の増加でも発症しやすくなる。下腿部の筋力や柔軟性の不足によっても起こり、ストレッチで筋肉の柔らかさをキープすることが予防につながる。
1-5-2. 処置方法
アイシングを行って患部の痛みを緩和する。運動量を減らして患部の安静を心がけつつ、水泳や自転車などの運動で受傷部位以外のトレーニングを続けるのがよい。完全に休養してしまうと、復帰時に遅れた分を取り戻そうと無理をして、結果的に再発を招きやすくなるためだ。
シンスプリントの発症はオーバーユースだけでなく、シューズや練習場所の地面(床)の硬さにも原因がある。また下腿部の筋力と柔軟性の低下も怪我を引き起こす。練習環境を見直し、ストレッチを入念に行うのがよいだろう。
1-6. アキレス腱断裂
ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)をかかとの骨につなぎ、歩行やジャンプを可能にするのがアキレス腱だ。体の中で最も強く大きな腱組織で、断裂するとつま先立ちができなくなる。断裂時は後ろから棒で殴られたような衝撃があるが、痛みがそれほど強くないケースもある。
酷使によって腱の柔軟性が失われ、急激あるいは頻繁に負荷がかかると断裂しやすくなる。ジャンプやピボットなど足首を使うバスケットボールでは、この怪我の発生頻度が少なくない。準備運動が不十分でも起きやすくなる。
1-6-1. 症状
- 強い痛みや腫れがある
- アキレス腱に凹んだ部分がある
- つま先立ちなど、かかとを上げる動作ができない
- 受傷側の足に体重をかけられない
アキレス腱が伸びた状態で着地する際や、ダッシュやターンのように急激に切り返す動作の際に起きやすい。痛みや腫れをあまり感じない場合もあるが、自己判断での放置は禁物だ。つま先立ちができるかどうかが、アキレス腱断裂を見分ける大きなポイントだろう。
1-6-2. 処置方法
応急処置としてつま先を下げた状態で固定し、アキレス腱が緩んだ状態で安静を保ち冷却する。腓腹筋の肉離れと間違われることもあるので、必ず医療機関を受診しよう。保存療法か手術療法のどちらかを選ぶことになるが、希望を考慮し個人に合った治療法を採用する。
手術療法の方が保存療法よりも競技への復帰は早いと言われ、再断裂の危険もやや低い傾向にある。どちらの治療法でも段階的なリハビリを行い、完治までにはおよそ半年ほどの期間を要する。復帰を焦らず回復を目指すことが大切だ。
1-7. その他の怪我
その他バスケットボールで起こりやすい怪我に「疲労骨折」や成長期に多い「骨端症」がある。疲労骨折は同じ部分に何度も圧力がかかることで発生する骨折で、オーバーユースやフォームの癖が原因で、女性に起きやすい骨折でもある。骨端症は、成長期の骨化していない軟骨の障害で、オーバーユースが原因のひとつだ。さらに急激な方向転換などで起こりやすい、筋肉や筋膜の損傷または断裂である「肉離れ」もある。
2.バスケットボールに多い怪我のまとめ
バスケットボールでの怪我の早期復帰には、回復期に休養や栄養をしっかりと取ることも大切だ。体のコンディションが整わない状態で、復帰を早めようとして無理をしてしまうと、却って調子を崩し回復を遅らせかねない。トレーニング・休養・栄養のバランスを保ち、再発のしにくい体づくりを目指そう。
バスケットボールでの怪我には、重症度が高く復帰まで時間のかかる怪我も多い。いかに焦る気持ちを抑え、着実なリハビリで完治を迎えられるかが重要だ。そのためには怪我についての知識を持ち、自分の体の状態を正しく判断する必要がある。
怪我に見舞われるのは不幸なことだが、怪我をして初めて見えてくるものもあるだろう。バスケットボールに対する心構えや競技環境を見つめ直し、再発しないための効果的なトレーニングに励むこともできる。コートの外に立って全体を見渡すことで、選手としての視野を広げるチャンスにもなるはずだ。
怪我の適切な処置は重症化を防ぎ、正しい知識を持つことは復帰を早める。じっくりと完治を目指す期間は、心身ともに鍛えられる貴重な時間だ。そして怪我を乗り越え復帰したとき、あなたはバスケットボール選手として大きく成長できていることだろう。
コメント